最先端は最初につながっている

7年前の今頃のことです。2010年7月25日、ロンドンでのイベント「ハイボルテージフェスティバル (High Voltage Festival)」でELPエマーソン・レイク&パーマー)の最後のステージが行われました。そのDVDが手元にあるのですが、お世辞にも素晴らしい演奏とは言えません。往年の名曲ばかりですが、キースのミスタッチが目立ちます。ちょっと悲しい映像でした。キースとグレッグが2016年に相次いで他界してしまったので、もうELPは見られません。

2016年3月7日に東京のサントリーホールで、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏会がありました。指揮は佐渡裕さん。マエストロ。2階の隅の席の切符を買ってありました。「タルカス」がプログラムの2 曲目にあったからです。佐渡さんの指揮で聴く機会にやっと巡り会いました。
演奏が終わり、客席にいたオーケストラ版のアレンジを行った吉松隆さんが紹介されました。さすがにキース・エマーソンはいないだろうと、客席を見渡しました。そのキースが自ら命を絶ったのが2016年3月10日。符合ではありませんが、何かがそこにあるように感じました。

ハイ・ヴォルテージ・フェスティヴァル 2010【日本語字幕付】 [DVD]

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「タルカス」は1971年に発表されたELPの2枚目のアルバム。7曲が連なる組曲になっています。吉松さんはこの作品を、「20世紀初頭の現代音楽と20世紀後半のロックとを繋ぐ〈ミッシング・リンク〉に当たる 重要な作品」として、キース・エマーソンにも許可を得て、オーケストラ版を編曲します。とても興味深いことを書いていらっしゃいました。「カール・パーマーが叩いているドラムのパートを6人か7人くらい(のパーカッションに)バラして、綿密なスコアにして、初めてコントロールできるリズムセクションとして機能するようになる」(文藝別冊KAWADE夢ムック「エマーソン・レイク&パーマー 鍵盤の魔術師の伝説」より) 

タルカス

タルカス

 

 

 
2010年に発売された初演のライブ録音。(2010年3月14日 於東京オペラシティコンサートホール)。オーケストラは東京フィルハーモニー管弦楽団。指揮の藤岡幸夫さんが、「はぁっ!」と最後のタメのところで声を漏らすほどのスリリングな演奏です。

この「タルカス」は、NHK大河ドラマの51作目、2012年に放送された「平清盛」の中で使われています。大河ドラマならではの重厚なタイトルバックに、縦書きの「挿入曲『タルカス』より『噴火』」、「作曲キース・エマーソン」という文字に心が躍りました。主演の松山ケンイチさんは奮闘していましたが、視聴率に苦戦し、打ち切りとも言われて、ドラマ自体は僕もあまり覚えていません。

タルカス~クラシック meets ロック

タルカス~クラシック meets ロック

 

 

NHK大河ドラマテーマ曲は、毎回、どんな曲なのか、初回放送の楽しみの一つです。最近では2016年の第56作「真田丸」の服部隆之さんの曲は、出だしのバイオリンから衝撃的でした。また古くは、1964年の第2作「赤穂浪士」。芥川也寸志さんの作曲のボレロ形式のテーマ曲は、今聴いても斬新です。大河ドラマではありませんが、中村吉右衛門さんが主役の1986年のドラマ「武蔵坊弁慶」。このテーマ曲もボレロ形式です。芥川さんの曲。悲劇で終わる時代劇に描かれる人の業。ボレロはぴったりです。

毎度、脱線します。いわゆる朝ドラ、朝の連続テレビ小説ひよっこ」の音楽は宮川彬良さん。細部まで作り込まれた脚本にふさわしい。音楽が何かを語っています。お父さんの宮川泰さんは「恋のバカンス」(1963年/ザ・ピーナッツ)や「宇宙戦艦ヤマト」(1974 年)等で知られています。音楽的な遊びに溢れた方でした。僕だけが気づいているわけではないと思いますが、なぜだか「ウナ・セラ・ディ東京」(1964年/ザ・ピーナッツ)と「真っ赤なスカーフ」(1974年/ささきいさお)は、どちらのメロディでもどちらの歌詞で歌えます。「ジャンジャン」というコントのオチになる音楽効果を作った人でした。彬良さん、お父さんを越えた感じがします。

テレビの初期にドキュメンタリーというジャンルを確立した「新日本紀行」。音楽は冨田勲さん。当時はスタジオミュージシャンという存在がほとんど無かったので、NHK交響楽団から集められたメンバーが、編集の終わった素材を見ながら、ほとんど生で音楽を当てていたとのこと。
冨田勲さんは、ムーグのシンセサイザーを初期に日本に持ち込んだ方です。個人輸入して、税関に用途を説明に行ったそうです。パッチ式の巨大なムーグ。弟子たちが使っていいと言われて、師匠の音作りの秘密が見られると勇んで、ムーグを見たら、ツマミが全て、元の位置に戻されていたなんて逸話があります。冨田さんも大河ドラマの音楽を「花の生涯」(1963年・第1作)、「天と地と」(1969年・第7作・初のカラー作品)、「新・平家物語」(1972年・第10作)、「勝海舟」(1974年・第12作)、そして「徳川家康」(1983年・第21作)と5回、担当しています。 最先端の作曲家ならではですね。

最新版 NHK大河ドラマ テーマ音楽全集 1963 - 2017

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チェロのデュオ、2CELLOS。2本のチェロだけで、クラシックからポップス、ロックまでを演奏する彼らは、その演奏をYouTubeで公開したことで広く知られました。日本での演奏を見たのですが、いちばん驚いたのは、演奏中に撮影ができるというスタイル。ファンの女性たちが、スマホで写真やらビデオやら、ずっと撮影していました。ちなみに、日本と韓国で発売されているスマホはシャッター音を消すことができないので、カシャカシャを結構うるさい。アメリカやヨーロッパで一般的になりつつあるコンサートスタイルを日本で初めて見ました。そこにあったのは熱狂です。

チェロヴァース ー2016ツアーエディションー(期間生産限定盤)

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ベートーベンは第九の初演の際、既に聴力が失われていました。初演は失敗したと思い、指揮台の上で聴衆の方を向かなかったので、演奏直後の聴衆の熱狂に気付かなかったとのことです。アンコールの嵐だったとか。また、ベルリンフィルハーモニー交響楽団フルトベングラーが演奏する1942年のヒトラー生誕祭で演奏された第九。今世紀になって発見された貴重な録音ですが、第四楽章の合唱以降が、あまりの熱演でテンポがとんでもないことになっている。熱狂がなせる業でしょうか。 

ベートーヴェン:交響曲第9番 1942年 メロディア盤

ベートーヴェン:交響曲第9番 1942年 メロディア盤

 

 

極端というか、最先端はどこかで最初につながっています。映画「メッセージ」の原作「あなたの人生の物語」の著者テッド・チャンの短編「バビロンの塔」。天にも届かんばかりに高いバビロンの塔をどんどん登っていった男が辿りついたのは、砂漠の大地。
「そうか、円筒印章だ。(中略)この世界は天と地が接するように、ある玄妙なやりかたで丸く巻かれている。いちばん長い旅でさえ、人間を最初の出発点へひきもどすにすぎないからだ。」

デジタル時代になって、いろいろなつながりが新しく作られていきます。でもそこに不可欠なのは熱狂です。そして、熱狂が最先端と最初をつなぎます。


あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

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