The Right Stuff〜そこにいるべき人は誰だ

ここ最近見た映画の中で印象的だった3本は、ちょうど1950年代後半から1970年代前半が舞台になっていました。アメリカが挫折に直面し、それを乗り越え、そして改めて未来を模索した経験を、虚実を取り混ぜて描いていました。

時代的には1962年あたりが軸になった「Hidden Figures」。毎度の飛行機の中での鑑賞です。(ちなみに、キアヌ・リーブスの「JOHN WICK: CHAPTER 2」、マット・デイモンの「THE GREAT WALL」も見てしまいました。)

さて「Hidden Figures」。タイトルがまだ原題であることからわかるように、日本での公開がなかなか決まらなかった映画です。機内で見られることがわかっていたので、とても楽しみにしていました。日本に戻ったタイミングでちょうど、この秋に日本でも公開されることが決まったようですが、邦題でモメているようです。こういう題名は難しい。アメリカ国内ではかなりのヒットを記録したのですが、人種差別の中、アメリカの有人宇宙飛行計画を支えた黒人女性たちが主人公の、知られざる(=hidden)物語ということで公開がなかなか決まらなかったようです。 

Hidden Figures

Hidden Figures

 

 
当時、NASAではコンピューター導入前で、計算尺を使いながら、手で軌道計算をしていたのですが、その計算を黒人女性たちが行っていました。彼女たちはコンピューターと呼ばれていたのです。そう、計算士。彼女たちはそんな重責を担っていながら、トイレが白人用と有色人種用に分かれていたり、なかなか管理職に登用されなれなかったり、という差別の中、頭角を現して行くというストーリーです。“compute”という単語、もともとは「計算する」という意味ですものね。自動計算機が登場するまでは、人力だったのが当たり前の事を忘れていました。
2月末に行われた第87回アカデミー賞受賞式。長編ドキュメンタリー部門のプレゼンターとして、この映画の主演の3人、タラジ・P・ヘンソン、ジャネール・モネイ、オクタヴィア・スペンサーと一緒に、タラジ・P・ヘンソンが扮したキャサリン・ジョンソン博士ご本人が登場しました。また、ついこの間のサンノゼで開かれたAppleの開発者イベントWWDC2017では、Hidden Figuresの1人であったクリスティン・ダーデン博士が登場するセッションがありました。
タラジ・P・ヘンソンは、CBSのドラマ「パーソン・オブ・インタレスト(Person Of Interest)」の刑事役で知りました。役によって、年齢も含めた雰囲気がガラッと変わる、上手い人だなぁという印象です。またケビン・コスナーが、人種に囚われず、適任の人(Right Stuff)がそこに参加すべきだという態度のNASAの責任者をカッコよく演じています。舞台となったヒューストンにあるNASAのジョンソン宇宙センター(あ、ジョンソンの名前を冠してた)に行ったことがあるのものですから、あのちょっと事務的で機能的な施設の中を思い出しました。
映画に登場する有人宇宙飛行計画(マーキュリー計画)に参加した宇宙飛行士7人(マーキュリー7)の1人、ジョン・グレンって、本当にアメリカのヒーローなんだと感じました。ここでもカッコいいんだもの。“I mean, she says they're good, I'm ready to go.”=「あの子が間違ってないと言わなきゃ、飛ばないぜ」(意訳です)だって。マーキュリー計画と言えば思い出す映画 「ライトスタッフ(The Right Stuff)」(1983年)でのジョン・グレンエド・ハリスもカッコいい。まもなく宇宙に飛び立つグレンに奥さんから電話がかかってきます。ジョンソン副大統領(ジョンソンは結構、悪役扱いされる嫌われものです)がグレンの留守宅にテレビカメラと一緒に訪問したいと言って来ているのですが、奥さんは、グレンのことが心配でそれどころじゃない。困りきった奥さんとグレンの電話の会話です。「俺は100パーセント、君の後ろについている。相手が誰だろうと足の指一本入れさすな。言ってやれ、宇宙飛行士のジョン・グレンがそう言ったと。」すごい啖呵。
ちなみに、ライトスタッフには、黒人女性たちが軌道計算をしていたなんて、全く描かれていませんでした。
もう一つ。懐かしいもの。トランジスタメインフレームのIBM7090、そしてFortran、懐かしい。

 

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その嫌われもの、リンドン・B・ジョンソンが副大統領から大統領に昇格した場面も描かれている、1963年の話「ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命(Jackie)」。アメリカ合衆国第35代大統領、ジョン・F・ケネディの妻、キャサリーン・ケネディ元駐日大使の母、ジャクリーヌ・ケネディの“伝記”映画とのことですが、“伝記”ではないですね。ダラスでのケネディー大統領暗殺に際して、どうやって「伝説」を作ったか、という映画です。日本語の題名、これはいい。ファーストレディとして最後の仕事、その使命を全うするまでを描いています。虚実の皮膜になんとやら、ですかね。
配役もよくて、ナタリー・ポートマンはシャネルのスーツと、帽子がよく似合います。あの頃の微妙な膝丈のシャネルスーツ。
そうそう、蝶々のモチーフで知られるデザイナーの森英恵さんが、1960年代、ココ・シャネル存命中に仕立てられたシャネルスーツをお持ちなんだそうです。ある時、それを顧客名簿から知ったシャネル社が展示のために貸して欲しいと言ってきたのですが、お断りになった。理由がすごい。中途半端な膝丈を嫌って、森先生自ら切っちゃったからですって。さすがミセス・バタフライ、森英恵

グッドバイバタフライ

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さて、配役ですが、ジョンソン副大統領役がちゃんと大男なのが正しい。身長190センチ超のジョンソンが、ケネディの暗殺後に急遽エアフォースワン(当時はボーイング707を改造したVC-137)内で大統領に就任し、宣誓を行っている写真でも、やや背を屈めている姿が印象的でした。血染めのコートのジャッキーが横に立っています。それが映像で再現されていました。弟のロバート・ケネディー役のピーター・サースガード(Peter Sarsgaard)も結構似ています。兄に比べて、ちょっとひ弱な感じのロバートが、よーく出ています。
ケネディとジャッキーは、ホワイトハウスのプライベート空間に、毎夜のごとく音楽を響き渡らせます。ミュージカル「キャメロット」のレコード。イギリスの伝説の王、アーサー王と彼に仕えた円卓の騎士たちを主人公にした、伝説の都市キャメロットを舞台に展開するお話です。ちなみに美しい世界が崩壊していく物語です。美しい王朝が崩れ去る様は美しい。ジョン・F・ケネディとジャッキーは自らの政権を、アーサー王の理想の宮廷に準えていたのです。
アメリカ人は潜在的に、連綿と続いているヨーロッパの宮廷文化への憧れが強いと言われています。それはアメリカの歴史の短さが、建国以来のトラウマだからです。新大陸は旧大陸に比べて劣っている土地。神に祝福されていない土地だという、謂われのない蔑みに対抗することを、あらゆる手段で行ってきました。またアメリカには強くて大きな生き物は存在しない、それは劣った土地だからであるという博物学プロパガンダにも苦戦しました。
ある時、骨格だけでも6メートルに及ぶ化石が発見されます。それ見たことか、アメリカにも強い生物が存在したのだ。大懶獣メガテリウムという名前で呼ばれるようになります。博物学者でもあった第3代大統領トマス・ジェファーソンが先頭に立って、この生き物の存在を喧伝しました。でも、このメガテリウム、実は巨大なナマケモノ。ゆっくり動いて、葉っぱを食べていたようです。

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ジャッキーが腐心して、やっと実施された壮大なJFKの葬儀。第16代大統領エイブラハム・リンカーンの葬儀と同じ葬列で行ったことの意義は、歴史の中の継承性、正統性に拘ったからでしょう。ジャクリーヌ・リー・ケネディのファーストレディとしての最後の使命を果たした結果、JFKは伝説の大統領になったのです。

 

さて、大きな獣のお話。
1973年あたりが舞台であろう「キングコング:髑髏島の巨神(Kong: Skull Island)」。滑り込みで観て来ました。540席の丸の内ピカデリー3でしたが、最終上映回ということもあり20名程度の入りでした。観てよかった。間に合いました。何って言ったって、キングコングですからね。東アジアの雷雲に囲まれた絶海の孤島(このフレーズ、懐かしい)が、アメリカの偵察衛星で雲の切れ間に発見されます。資源を求めて調査隊が組織され、護衛にはベトナムから撤退するところだった、我が愛しのサミュエル・L・ジャクソン大先生が指揮を取るヘリコプター部隊が急遽派遣されることになります。物語は手に汗握る展開で、コングや他の怪獣(?)の動きなんかもいい感じです。
僕が楽しみにしていたのは、映画評論家の町山智浩さんが週刊文春の連載で書いていらした通り、SLJ先生がおきまりの一言「Mother f・・・」を叫ぶ前に、コングに叩き潰されてしまうという衝撃(笑撃?)のシーン。今か今かと待っておりました。
映画の冒頭、第二次世界大戦時の髑髏島に米軍機と日本軍機が不時着し、パイロットたちがコングに遭遇するシーンがあります。そこに、とても現代的な顔をした日本兵が登場します。誰かなっと思ったら、ギタリストのMIYAVIさんでした。なんだか、ストーリー展開のための登場人物が多いように感じるのですが、登場人物、一人一人がそこにいる意味をそれぞれが問うている映画だと感じました。

 

The Right Stuff。そこにいるべき人。正しい資質を持った人がいるべき場所にいるのでしょうか。キャメロットのような理想の場所でしか起こり得ないなら、求めても詮方ないのか。自分のこと。自分の周りのこと。いろいろ考えさせる3本の映画でした。