トチローと僕〜帽子とマントを巡るスタイル考

松本零士先生の漫画に登場するトチローという人物、ご存じですか。短足、ガニマタ、近眼。松本先生曰く「メガネの怪人」だそうです。あまり誇れたものではありませんが、姿形に親近感を覚えます。特に、つばの広い帽子とマントを纏うと、他人とは思えない、少なくとも近親者なのではと思えてしまいます。

 

トチローは宇宙海賊キャプテンハーロックの親友であり、その乗艦アルカディア号の設計者、そして「銀河鉄道999」で旅をする星野鉄郎の手に渡り、数々の修羅場をくぐる際の相棒となった戦士の銃コスモドラグーンの設計者でもあります。作中で活躍するというより、回想されるキャラクターでした。

 

松本先生の漫画のキャラクターも、スターシステムっぽく、他の作品に登場します。トチローは1971年から1973年まで、講談社週刊少年マガジンで連載していた「男おいどん」の主人公、大山昇太(おおやまーのぼった)の系譜に連なります。「男おいどん」は、四畳半の下宿で極貧生活を送る若者を主人公にした青春群像劇。極貧と言っても、ギャグとペーソス(最近は使われなくなった言葉ですね)を交えたストーリーで、笑いと共感を得ていました。トチローは大山昇太の遙か未来の子孫と松本先生は語っているとか。

僕はこの漫画を、小学校の学級文庫にあった週刊少年マガジンで読みました。あの頃は70円か90円でしたかね。何故、学級文庫少年マガジンが、とお思いでしょう。そう、小学校3年生の時の担任が強烈な人でした。長髪。授業中ガムをかむこと奨励する(頭が活性化するという理由)、児童にたばこを校外に買いに行かせる(おつりをもらいました!栄養ドリンのリポビタンDも一緒に買うこともあり、それを一口飲ませてもらうのも楽しみでした!!)、学級文庫として少年マガジンを置く(考えたら自分の愛読書、読み終わったものを置いていただけかも)、など数々の所行が問題化して、PTAからの猛烈な抗議を受けていました。
しかし僕にとっては、“学級文庫”にあった週刊少年マガジンは、新しい世界への入り口でした。その頃の少年マガジンは、今でしたら青年誌のようなラインナップを誇っていました。テレビアニメとは異なる血みどろの「デビルマンデビルマン (完全復刻版) 全5巻完結 [マーケットプレイス コミックセット])」、自由律の俳人種田山頭火を主人公にした漫画(「ヒッピー俳人山頭火」というタイトルで、作者は旭丘光志さんという方らしいのですが)、「天才バカボン天才バカボン (1) (竹書房文庫))」、「空手バカ一代空手バカ一代(1) (講談社漫画文庫))」、「あしたのジョーあしたのジョー 文庫版 コミック 全12巻完結セット (講談社漫画文庫))」に出会いました。ご存じかと思いますが、「空手バカ一代」は極真空手の始祖大山倍達の修行期の実録漫画です。(この実録というのは多少怪しいのですが、それはまた別のところで。)大山倍達が傷を癒やすために温泉に入っていると、太極拳の使い手が高い位置から飛び降りてきながら、こう叫ぶシーンが忘れられません。「太極拳の奥義、ナントカ(ここが覚えていない!)を見て死になさい、大山!」どんな技だったのでしょうか。つのだじろう先生(「うしろの百太郎」怖かった。うしろの百太郎全6巻完結(ワイド版) [マーケットプレイス コミックセット])の絵が思い起こされます。太極拳とは殺人拳法だと記憶してしまったので、後年、街で健康のための太極拳教室の看板を見、そこに出入りする老人たちを見かけると、あの人たちは恐ろしい拳法を学んでいるんだと戦慄を覚えたものです。

2~3年後になりますが、永井豪さんの「イヤハヤ南友(イヤハヤ南友 (1) (扶桑社文庫))」(1974-1976)という漫画がありました。ご存じですか。後の「けっこう仮面けっこう仮面 [コミックセット])」(1974-1978)につながるエログロ満載のギャグストーリー漫画です。この作品で“三角木馬”というものの存在を初めて知りました。忘れられない!

少年マガジンは定価が10円づつ値上がりしたように覚えています。150円か170円になるまで、読み続けました。

帽子は元々好きでしたが、最近は若い人が帽子をかぶるので、昔からの帽子屋さんだけではなく、ファッションを意識した帽子屋さんも増えてうれしい限りです。冬の帽子も、UNIQLOのものからボルサリーノのものまで、いくつか取り揃えています。夏は日本の夏の日差しを避けるため、冬は寒さを避けるため、帽子をかぶること無しではいられません。冬のヨーロッパ、特にスイスの山岳地帯やロンドンに滞在した時などは、フェルトの帽子が手放せません。今日の服装にはどの帽子がいいか、毎朝悩みます。
現在の副総理兼財務大臣の麻生さんの、長めのコートに帽子と白いマフラー姿はまるでイタリアの悪い人(イメージ)のよう。外遊時、政府専用機から降りていらっしゃる姿なんて最高です。
それにマント。だいたいマントなんて持ってるの?と訊かれそうですが、そうです。持ってます。あるパーティにお呼ばれした時に、服装の指定がブラックタイでした。その場合のコートをどうしようかと一思案。その頃は長髪でしたので、帽子はなし。そうなるとやはりコート。会場のコンラッド東京まではタクシー、でも降りてから会場までは歩く。帰りのことも考えるとやはりコートは必要。持っているコートではスタイルとしてのインパクトに欠ける。で、思いついたのがマント。
ちょうど男性ファッション誌で見たマントが気になっていたので、輸入元に電話すると、銀座の英國屋か和光で扱っていることがわかりました。オーストリアのシュナイダーというブランド。ローデンクロスという、ウールの脂分を完全に取り除かないように洗って、天然アザミでブラッシングした生地。正式な場に着ていける外套です。布一枚なのですが、意外に暖かい。ただ、地下鉄の出入り口など、風が強いところで、思いっきり、吹き上がります。女性がスカートの裾に気をつけるタイミングを思い知らされます。それに乗り物に乗って、座る時、そして立つ時の所作がわからない。タクシーから降りる時、裾を踏んづけました。
マントと言えば、イタリアの国家治安警察隊カラビニエリ(Carabinieri)の制服、冬の外套はマントです。赤と黒の制服にマントは、誠にカッコよい。「進撃の巨人進撃の巨人(22) 通常版: 週刊少年マガジン)」(2009-)の兵士たちもマント姿。

空気も重力もない宇宙空間にいる時でさえもマントが翻っていたキャプテンハーロック。トーガ(貫頭衣かな)のようなワンピースを身に纏っていたジェダイの騎士たち。宇宙を縦横無尽に飛んでいるのに。機能性を追求して服装を考えると、もっと相応しい外套はいくらでもあります。例えば、耐寒性を考えればダウンの入ったものがその代表です。確かにダウンは暖かい。UNIQLOのダウンは安くて暖かい(毛皮が一番という意見もありますが)。でもね、礼服にダウンはないですよね。スーツの時もダウンはないなぁ。そこは譲ってはいけない線があると思っています。   

SF映画に登場する未来の服装は、なんだかツルツルした布地の全身タイツみたいな服装がイメージされます。ジャンプスーツかな。1970年代から1980年代に一世を風靡したファッションデザイナー、ティエリー・ミュグレー(Thierry Mugler)は宇宙的デザインと言われる服を発表していました。「なるほど!ザ・ワールド」司会の楠田枝里子さんが着ていたような。今となっては昔の話。

アラビアの男性は白いワンピース(でもないけど)を着ていますよね。カンドゥーラとかトーブ(ソーブ)という民族衣装。サウジアラビアに行った時、ホテルのアーケード街を覗いていたら、イタリアのデザイナー、ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferre)のオーダーメイドのカンドゥーラブティックがありました。さもありなん。同じように見えて、彼らは生地から選んで自分なりのものを作るのだそうです。

トチローはマントの下に何を着ているんだろう。少なくともツルツルの生地のジャンプスーツではないでしょう。そんな未来はイヤです。